楽園の終焉Ⅱ2011-15 ― 2020年02月04日 19:39
“やった”
そう、そうこなくては。
これが醍醐味なのだ。
本命とおぼしき奴が、そのラインの向こうに闘争本能むき出しにして必死に逃げようとしているのが想像できた。
その引きから想定するに、小さくはないと思った。
そう判断できた。
急いで仕掛けを回収すると、ロッドを艫の脇に置き舳へ移動するとそこは、T氏の戦場であった。
T氏は、痛めた肘をかばいながらもとても良いファイトをしている。
中年のおっさんに仲間入りした彼の体脂肪は殆どないし、日頃のトレーニングも怠ってはいないらしい。
しかし、今年痛めた肘は痛いみたいであった。
私のヒット後、T氏が、ストライクプロマグナムミノ―に替えてからすぐにヒット。
彼とは若き頃の笑い話を良くするのだが、いつも小湊の清澄寺の近くで山籠りされた偉大は武道家の話をする。
「あのローキックは痛いよねぇ」
とも話す。
あの上から大腿の急所を狙った下段蹴は強烈に痛いのは彼も良く知っていた。
難なく冷静沈着にロウニンアジを上げてしまった彼にはまだ余裕の笑みがあった。
さあさあ、これからだ。
これからが本番なのだ。
早々に撮影を済ませると迅速にリリースをする。
何とも頼もしい2本目。
これも軽く25kgはあった。
船はまた、ほぼ同じ位置に移動すると潮の流れにそって流し始めた。
そして、更に活性が上がった我々は、キャストを繰り返す。
再び前衛から声が上がり、クルーが叫ぶ。
「えっ?誰なの?」
そう撮影の忍者君に尋ねると、名人は
「T-氏です!」
確かにそう答えた。
こうなるともはや気運はT-氏に流れて行った感は、確定的であろう。
決して無理しないが、確実にかつ的確に相手にプレッシャーを与え続ける様は、安心して観ていられる。
流石に百戦錬磨のT-氏。
マーリンマニアが生んだ冷静さと落ち着き。
しかし、その内なる闘志は、尋常ではない。
ロウニン者は、常に休む暇なく負荷を掛けられてもがき苦しんでいる様子。
更にT-氏がポンピングを仕掛けて2度、三度と間合いを詰めて行く。
と浪人者が思い出したかのようにぐっ、グッと竿を曲げて伸して行く。
そのロッドの動きに合わせてチッ。チチィー…とリールが鳴いて糸を少しずつ引き出して行く。
しかし、徐々に糸が出るよりもリールに回収されて行く方が多くなって行くのであった。
勝利は、その目前。
そこにある。
長きに渡って、年齢を積む毎に、経験を積み重ねてゆき、時間と財と、そして知恵と英知と投入して来た彼に全てが味方するようだ。
その後に訪れる、達成感と充足感、汗と歯に噛んだ笑顔。
その全てが羨ましくも見習いたいものだと感じた。
たかが釣りというけれど
人生の大きな礎になる事があり、投入した分だけ天使はほほ笑んでくれる事であろう。
みるみる体色が変わっていった
彼がGTを始めた頃は、まだ黎明期から発展期に差し掛かろうという頃であって大手メーカーやそのTV番組でも早々取り上げられる釣りではなかったと記憶している。
まだまだアナログ全盛期な頃であった。
その頃のロッドを彼は再び手にしている。
当時の竿には、必ず富士工業のNSGガイドが付いてあった。
バットガイドはその40径サイズなのだが、あきらかにガイドの方向は順付け方向であった。
しかし、今回もトラブルは殆ど無い。
右往左往される昨今のガイド事情に振り回されない1本であった。
とりわけNSGガイドが劣っている訳でもないのは、釣り人ならば理解できるところではなかろうか。
T氏と銘竿FISHERMAN GIANT86。
かつて、この竿をどれだけのGTアングラーが使っただろうか?
今でも銘竿だと思うが、次第に世間の評価は何故か下がっていった。
ラインの強度が上がるにつれパワーファイトに向かないとか言われるようになった。
強靭な成魚の顎
後編へとつづく