南方回帰Ⅳ-影と闇と残光2014-142023年05月22日 17:30

 5月も暑かったり、寒かったりとその落差も10℃を大きく上回ることしばしば相変わらずの気候に早くもバテぎみです。
夏服と思ったらまた春服を取りだしてみたりします。
富士リールシートフード
今まで修理したり、取り換えたりした富士工業製のシートももう古いものは30年以上も前の型です。歴戦を渡り歩いたこれらは、常に縁の下の力持ちであったことは言うまでもありません。
 それではその14です。

さてさて

島の猫


それでどうした
Y監督は、コーチ兼任と言う事

ここで翌日は、Y氏の来島である。
なんとか間に合った様子をとうとうと我々に話してくれた。それを、まず受け入れて聞くに徹した。おそらく、それなりに大変だったのであろう。

「ぎりぎりだったよ~なんとか間に合った!」
相変わらずの元気さは、年齢を感じさせない。Y監督はバナナに拘っていた。バナナは、釣りに欠かせない様子だった。野人もそのバナナが好きみたいだったからかもしれない。しかしながら私とI専務は、それに全く関心も興味もないのである。

 コーチ兼監督を依頼せずとも、きっとその位置には立ってくれるであろう。
いや、その位置にすぐに立ってしまう。本日の釣りはきっと賑やかになるだろう。きっと。それはそれで、面白いので受け入れるのである。
レギュラーメンバー化と言うよりもコーチ化のY氏は、果たしてどのような指示とコメントがあるのだろうか。

さてさて、その時間となると今日も出発する。当然ながら3人分の荷物は、重い。年の功で、Y氏は最低限の荷物で次に私が20kgほどを背負って、若い専務が40kg近くの道具と食料、水&PET氷を背負う。汗が滴るのはもう馴れて来た頃で、ドライシャツが有効に効いているのか、少しばかりラジエーションが効いた様な感じに思えた。

 現場の上にY監督が立つと、その高い位置から我々を見下ろす。
監督の眼下は、我々と海原、小宇宙の二人。
三人と言うのは、何故なんだろう。
二人よりも力が出る感じがする。きっと。

潮は、左から右に流れている。

監督は、暫く監督として頂くが二人は竿を海原に向ける。
風も少し南より。
波も幾らか大きい様子。
向かい風の釣りとなる。
唯一コンベンショナルリールが苦戦する向かい風キャスティングだが、そこはブレーキのかけ次第となる。それでも、バックラッシュ気味になるのが嫌なのは誰でもそうである。

波間に浮かぶ仕掛けと竿2本。

奴を迎え撃つ。

果してそれは・・・・・・。

その日の奴も、突然やって来た。

仕掛けがグンと沈んだ後、横っ走りするのが月明りに照らされて魚体が動いたように見える。

反転前なのか、うっすらと白銀影。
喰い上げた様に感じた。

その竿先は、どちらなのか。

その竿はと言うと、専務の方だった。

「おい!それはイソンボだ!!」

そいつは、高速で右に泳ぐと、大きく進行方向を変えて今度は沖にまっしぐら。これは面白い!
高速加速は止まらない。
リールクリッカーは、ジージーと言ったまま鳴きやむことは全くない様子だった。
ここでやってはいけない事、スプール押さえ・・・なのだが。
専務は、それを咄嗟にやってしまった。
当然あっと言う間に指が火傷した。

やられたい放題とはこのことだろうか。

どうやらトラブル気味なので私が、フォローに入った。

ラインは、ぐんぐん引きだされて行く。

その間、1分程度の時間。

“ちょっとこれはおかしいぞ?”

「やばい、バッキングまであと少し。」
「こりゃ、参った!」

遂にバッキングPEまで見えていた。

「ド、ドラグが利かない!」
「えっ!!

そこで咄嗟に思いついたのが、サミングしながらレバーをフリーにしてプリセットし直すと言う事だった。今思えばそれがベストでは無かった事に気づくのだが、後で気付いたのは、翌日の会話の中の事であった。
 何とかこの現状を咄嗟の判断で解決すべく、指でグローブを押えるには少し不足と、人差し指と親指で押えに掛かるがアッと言う間の間で手を離さざるを得なかった。当たり前と言えば当たり前であるが、即火傷した。
なんと私のグローブも指が抜けているカットタイプな上に専務はというと、なんと言うことかグローブをするのを忘れていた。

 それでも私は、レバーを下げ切り、ブリセットつまみダイヤルを回してレバーを上げた。

「よし、行けるぞ!」

その間は、30秒と経っていないと思えたが・・・・・。
レバーを上げた時には魚は既に付いていなかったようだ。
沖目のブレイクラインまで走り切りのブレイクであった。
正に逃げ切られたとはこのことなのだろうか。まさかの逃げ切り。人為的ミス。

当然の事、専務はライン回収には暫くかかった。

ドラグは、23㎏しか利いていなかった。
これでは、止まる筈がない。
10
㎏程度の小イソンボでも簡単に糸を出して行くのは容易に想像がつく。白い影はもちろんそんな小型でもなかったように思う。

暫し、リセットには時間がかかる。
専務は、フリーズしたかの様だった。

それが、落胆なのか、脅威なのか、心の整理がついていないのかもわからぬまま。

全くの放心状態とはこのことである。

この間数分の出来事である。

気を取り直して仕切り直しとした。このまま、引きずってもなんのプラスも無い。なんでもそうなのだが、この手の釣りに於いても気持ちの切り替えは重要である。それとは裏腹に、二人の指先は、火傷でひりひりと痛んでいた。
それが、悔しさとなってふつふつと湧き上がるのを抑えるのに必死であった。

 専務は、悔しいと言いながらも再び仕掛け製作に取りかかった。

気を入れ替えてなお、また悔しい。

その悔しさを引きずったまま時間が過ぎる。

そしてまた、時間が流れて行った。

それからまた1時間が過ぎても反応は、無かった。

それからどれぐらい時が過ぎたであろうか。
2時間なのか・・・。

3時間なのか。

もうどうでも良い感覚にも襲われたように感じた。

真冬なのに汗が出る。

緊張で喉が渇く。

そして水を口に入れる。

暫くして・・・・また・・・・・・動く。

それて、再び専務の仕掛けに動きがあった。

「きっ、キタっ!」

今度は、空かさすファイティングポジションに入った。どうやら、運気の流れは専務に傾いて来たようである。

 いつも不思議と思う事が、運勢やその気運は常に移動していて流れが変わって行くのを感じるのは当然私だけではない。実際、同じ様に同じ事をしていても、これだけ差がでるのは単なるテクニックだけと言う訳ではないのではないかと思う。もちろん、同じ条件に近い状態での話であるが。

その時の口癖は決まってこうである。

「なんで同じ様にやって同じコースと棚でこうも違うんだろう?」

 今度は、渾身の力でとバランスで耐えている専務であった。
「よしよし、よっしゃぁ~!」
完全に流れは、これで専務に傾いていた。

「あっ・・あれぇ!・・バレタ。」

「えっ・・・マジかよ!」

更に残念そうな顔持ちで専務は、がっくりと気を落としながら、ラインを巻き取るその後ろ姿があった。

「くそっ。切れちったかな?」

それは、切れてはいなかった。

「おいおい、香取神道流!」

しっかりと針が彼の手元に帰ってきた。なんと、バレである。(フックアウト)掛かりが浅かったのであろうか。なんとも派手に現れて、あっと言う間に寂しい海からの回答であった。

流れは変わり運気も変わったが、何かが足りなかった。それは、経験値だったのかもしれない。

その悔しさは、今まで何度も味わって来た。
敗北感も、脱力感も。

そして、挫折も。

だがそれだから、辞める訳には行かないのである。釣り人よ、大いなる釣師になるまでは。

その日の帰り道は、重かった。
明日への希望を引っ提げてはいても、敗北は敗北であるから。
時折足の筋肉がピクピクとしていた。

大になる敗北の足並みはとても重いのである。


夕べの武者

その15へとつづく

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