南方回帰Ⅳ-影と闇と残光2014-9 ― 2022年11月29日 13:30

こちらもとってもしんどいんです。(ぶちしんどい)
とっても。(ぶち)
辛いんです。(つらいのう)
つらいのは、どちらも・・なのかな?(ぶちたいぎぃのはわれもかのう)
それでも一進一退のやり取りから徐々に、奴の糸を引きだして行くスピードが少しずつ遅くなっていった。それにしてもまだ全く気の抜けない状況に、専務は言葉を失っていた。当然サポートは無い。その代わりにめいいっぱいの気を利かせてくれて、その様子を数枚レンズに納めてくれた。これは、とってもありがたい。それが無ければ、当然ここは文章のみの実力に頼るしか方法がなくなる。
魚は、どうも左へ、左へと行きたいらしい。
“その左の先に何があるというんだよ”
“どうかそっちにはいかないでくれ”
15分が過ぎた頃、間合いが詰めに入った。
しかしながら、まだ全くと言っていいほど気が抜けなかった。奴が、ある程度の重量があるのは勿論の事、その力が弱まったとは言えまだまだ諦め切れていない感じだったからである。
そう、あの5年前、野人(先輩)が掛けたあのイソンボもそうだった。
※南方回帰Ⅲ闇からの一撃参照(http://tukinoturisi.asablo.jp/blog/2018/03/05/8798357)
どうもイソンボには、起承転結が判り易い魚でもあるように思えてならないのは、私だけなのだろうか?いやその完結までたどり着いたものは、それをきっと知っていると思う。その完結まで。その理屈から言うとロウニンアジもそれに似て結の往生際は、野武士の最後のようである。
状況からするに今は、最後の“結”の部分に差しかかっていると思えた。残り糸は20mをおそらく切っているそのすぐ下の距離だった。
一進一退の状態から、距離を詰めて相手の動きもかなり鈍くなって来た。掛けてから20分近くかその前後、こちらも相当息切れ切れである。それも何とかそこは踏みとどまって、竿を操作しながら相手にプレッシャーをかけて行く。それもいよいよ最終段階に近づいてきたのか、浮かせるだけの状態に移りつつあった。そこでリールのギアをローに入れる。(ラプターは、2段階変速ギアが付いているリール)ギア比が一気に落ちると、ぐんぐん巻きとれるのは感動ものに思えた。
イソンボは、それでも浮きたがらない様子で右のサラシ下から浮いて来ないばかりか、更に方向を変えて左に走ろうとした。こちらはと言えば、それ以上左には移動できない。ここで13f半の長さを活かしていっぱい、いっぱい左に走るのを必死でこらえる。ここは、長竿の利点が効いている。
‟くそっ・・・なんとかとまれ、止まってくれ”
奴に最初の勢いは全くなかった。ギリギリなのは、奴もそうに違いない。
‟これは、獲れるかも”そう思った。
磯際との距離あと数メートル。
‟10mを切ったぞぉ”
浮かせるだけだが、左に走ろうとするのがとても気になるところ。
あと少し。
奴の力も最初の2割も残っていないギリギリの状態。
ほんの少し。
浮け!
浮くんだ!
浮かせるぞ!
そしてなお奴は、更に左に最後の突っ込みを見せた。
チッチと僅かにドラグがなり糸が出た。
腰が苦痛を言う。
腕が悲鳴を上げる。
これはきつい。
かと思うと・・
その時は、あっけなく訪れた。
竿は、撓るのを止めたのだ。
あぁ・・・あの嫌な感じ。
そうその予感。
脱力。
「あああぁ!バレた!くそっバレたよ~!」
一発目は、それ相応に大型であったと思う。
あの感覚は、重かった。
十分に奴を追い込んだに違いないが。
またまた、敗北であった。
悔んでも仕方のない事である。
誰も責められない。
完全自己責任である。
これだから、釣りは止められないのかもしれない。
自分の中の消えかけた火をまた点けてくれるものだ。
一体何度消えかけてはまた点き、消えては灯されるのか。それにしても、ほぼ9割の段階に来てブレイクとは。全くもって気を抜けないのである。
空しくも、儚く残りのラインを回収する。空転に近いそのハンドルがそれを物語るか。逃げ切られた。あとほんの8m~10mだった。つまり、水深8m前後のこの場所ではほぼ足元に近い位置であった。隆師匠が、丁度その左下に岩が付き出ていてすぐスリットがあると言っていたのをそれで再認識した。
メインラインは、ところどころ擦れてかなり危なそうだけどなんとか持ちこたえていた部分が数か所あった。それが、多くの負担を強いられてきたに違い無かった。良く頑張ったナイロン糸。切れた部分は、エッジに近いのだろう。斜めにスパッと切れていた。毎度の事ながら難しい。この場合は、PEなら即ブレイクだっただろう。
息切れは終わらなかった。
苦しさ倍増。
そして脱力。
空しく、肩で息をする。
釣り人の中には、PE世代でナイロンを殆ど使用して来てない釣り人が多くなったようで、事もあろうかPEの方がすべてにおいて強いと思っているらしい。ここで言う強いは、ダイナメーターに対する直強度の話ではなく、摩擦に対する耐久性の事である事を補足しておきたい。
最後の“結”である筈の内容は、想像したのとは少し違っていた。いや、どちらかの選択肢には入っていたことであるのだが、それは期待とは違っていた。それから究極の脱力感の後、気を取り直して2時間くらい、専務と次の襲撃に備えて竿を打ち、再び投入し仕掛けを流し続けた。
「ああ、隆師匠と待ち合わせの時間だ。」
「帰ろうか・・・・。」
専務は、たった一撃の衝撃を目の当たりにして、若干の動揺を隠せない様子であった。これが最初の洗礼であると認識したようである。
黄昏時の海と竿
未知への挑戦風にみえなくもない




