楽園の終焉 END OF PARADISE 2010-Ⅰ-152018年12月28日 18:10

その15

獲物

ナチックとGT

ナチックに襲い掛かったロウニンアジ。

ほんと惜しいルアーであるが、既に廃版の1発勝負。

緩すぎれば糸はどんどん出ていって根ズレを起こしてブレイクするし、ドラグを締めすぎると今度は高切れやアワセ切れ、あるいは、ロッドの破損に繋がる。
 丁度良い勝負どころというものが必要であるが、この魚の時はドラグ値8kg前後であった。
かなりのドラグテンションではあるが糸も簡単に出して行く。
 竿がギュンと撓る度にギ―、ギ―とリールが音を立ててまたラインがでる。
 しばしその悲鳴を聞いてはみるものの潮音にかき消されつつもラインローラーのキリキリという音ははっきりと耳元まで届き、根まで持って行かれないところで止まってくれるのを願うと同時に、もう少しドラグを締めにかかる。
魚が船より遠い時は、ラインとロッドの角度は鈍角になるのでそれに合わせてロッドを立てる事ができるのでバットのパワーを最大限に使って魚にプレッシャーを与え続ける事ができる。
 糸を少し出しつつも止まる気配を見せ、止まった瞬間にポンピングをかける。

根際のファイトは、ライン切れを防ぐためにも早急に回収したいところである。
そこでCapt.が根から剥がす(水深のあるより安全な場所)為に船をゆっくりとゴスタン(後進)をかけて行くがそれがやはり絶妙なタイミングで息をアングラーにぴったりと合わせてくれる。
プロだな・・・何度も感心する。
 日本にも優秀な遊魚船の船頭さんは多々いるが、このペースで常にアングラーに 合わせた操船をするCapt.はなかなかめぐりあわせが少ない。
自国に於いては、多人数乗船で多くの仕掛けをボトムに立てながら上手く操船する技術は、世界一と思われるが、魚が掛ってからのサポートとなると全くノーサポートという場合もあり困惑するのもしばしば。
乳酸値はかなり増したと思われ、痛めたまま一向に回復の兆しの見えない右肩筋肉が、悲鳴を上げて、あの何度か経験しためりめりと筋肉が剥がれるような感覚と痛みは耐えがたいものではあるが
戦闘態勢にある体内の影響でアドネナリンの引き起こす興奮と、脳内モルヒネ?風の痛覚を感じにくくさせる機能の御蔭で(はたまたバリの神々のおかげで?)ファイト中の痛みはあまりない。

じわじわと(後進)ゴスタンが効いてくるがその間のハイプレッシャーでロッドを溜めるので精一杯であるが、Capt.は、それも良く観ていた。
 できるだけアングラーの負担を最小限に抑えるように後進を微妙にかけて行く。
 ここで今一部のアングラーの間で行われている、ロッドを寝かして伸した状態で後進をかける方法を行えば、ロッドワークしながらよりも楽に魚を寄せ獲る事で自体は楽になるし、アングラーの負担もさらに軽減されるがそれは、ウインチ釣法とまったくなんの違いも無いのであくまでもロッドで戦う方向性に変わりはないのであった。

ゴスタン(後進)と共に圧し掛かる重量感。
水流と魚の抵抗で水圧を受けてロッドがさらにバット上まで曲がり、首振りを上手く吸収しながらも 隙あらば、リカバリ-(復元)しようとする。
ROD
がじわじわと復元し始めると、その間合いをショートポンピングでリールインして行く。
ショートポンプは1リフト1回転のリールイン。
 グワリと竿先が起きてくると2回転程度のリフトをするがボート下に来てからの重みは更に脚腰の筋力を使う。
言葉ではそう表現程度であるが本人は至って辛くここが勝負どころとなる。

丁度ボート下攻防の中盤、いやなサラサラというか、コリコリという感触がPEラインを通して感じる。
“やばい、擦ってる”

‟ライン擦ってるよ“
ここでラインブレイクする訳にはいかない。
 懸命にリフトにかかるがドラグ摘みを絞り竿の限界を伺いながら判断し、少しずつテンションを上げて行く。
暫くして、ふっとそのこりこり感が無くなる。
‟よし、回避”
しかしながら、奴も最後まで諦めようとはしなかった。
魚も限界まで走り続け、底棚をキープしようと最後の抵抗に至るがこの時間は最初のダッシュを凌いでから3分、5分、7分と過ぎて行った。

どうやっても辛いものは辛く、その‟しんどさ”に変わりはないが、魚ももう勢いよくドラグを出すことはなくなった。
 竿をめいいっぱい曲げる事が最大運動となってくる。
エネルギー不足と運動不足の膝が笑いそうになるのを感じる。
 その針から(苦しみ)からなんとか逃げようと浪人者は必死の抵抗を続けるが、奴も(私も)筋肉中の乳酸値はほぼ最大に引き上げられている頃である。
誰でも今置かれている苦痛や苦しみ、心の闇から逃げたいと思っている。それは浪人者だけの話に留まらない。

暴虐的ともいえるロウニンアジの引きは、そのピーク時は果てしなく続きそうに見えるが、重くのしかかってくるテンションとは裏腹に起承転結の解りやすい魚らしく、潔い魚であるかのように少しずつ、少しずつではあるが浮いてくる。

H氏が「平野さんガンバ!」と船酔いで気持悪そうな顔から最大限に励ますように一言声をかけてくれた。
 彼にしてみては最大限の応援だったかもしれない。

ふと横を観るとダイビング船が我々の様子を見学していた。
ダイビング船のキャプテンとこちらのキャプテンとでなにやら大声で話していたが現地の言葉に理解出来なかったが
恐らく、なにが掛ったのかという質問にロウニンアジのいいサイズという会話であったと推測できる。
暫くの間、その船は、我々のボートの回りを廻りながら見学をしていたが、一向に上がる気配のない様子に諦めたか、元々ダイバーには関心が無かったのか、すっと居なくなってしまった。

10分以上が経過したと思われる頃、不具合な腰が限界に近いような気がした。
ほぼ直下のファイトはまさに骨が折れるという表現がぴったりであるかのように苦痛に満ちている。
それでもアングラーはショートポンプで間合いを詰めるいや釣人の性で詰めざるを得ないのである。

一体この状態が何時まで続くのであろうか。
魚との間合いはもう15mくらいではないだろうか?
 とすればあともう少しの辛抱となるが。
しかし、もしこのテンションであと10分踏ん張らないと行けない、という事であれば一体己の体力は持ち堪えることができるのであろうか?
咄嗟に思い浮かんだ言葉は、
HさんHARNESSを出して来て!Reel Restと・・・・・。」
状況判断としてはベターと思われた。
船はヒットポイントよりかなり下流に流されてそれに潮がぶつかって大きく揺れる。
それが魚をよりいっそう重く感じさせるのであった。

もたもたしながらもHがハーネスを掛けてくれたが、セット完了の時間には、魚は先ほどまでの横に貼りつくような引きとトルクは感じられなくなり、すいすいとリフトアップするとすいすいと上ってきた。
H
氏が隣ででかい!でかい!と連発してくれて、クル―は2人掛りの体制にバタバタと機敏に準備をし始めた。

「リーダー!」とCapt.が叫ぶと一人が手際良くリーダーを掴み一人がその大タモを魚頭に向ける。もう最中は殆ど動けない状態であり、それはあのサットウ(アブラソコムツ)の往生際の悪さとはまったく正反対でもうどうにでもしろと言わんばかりの往生際の良さ。
H
氏の気分優れない顔からも、よほどの大きさなのか目が輝きに代わっているのは流石に釣人だと思った。
無事ネットインして皆興奮の坩堝にはあったが、本人は安心したとたんに笑顔もそこそこに、うまく表現できなかったのである。
これが欧米なら歓喜乱舞系か、日本人でも最近はそういう人も見かけるが。

大型ロウニンアジ1

やっと来たか大型浪人
バイト後のターンではこのパターンのフッキングが多いが、魚を浮かせるにはこの針掛かり位置ではアングラーが、
なかなかかなり辛いパターンに思える。
ルアーは、やはりリアルベイト130 サンマカラー
最も信頼の厚いルアーの一つである。

その16へつづく