楽園の終焉Ⅱ2011-7 ― 2019年11月05日 16:44
それでも日中は、暖かい日が続きます。
激動の大物
大物とは一体何
腹側のフックは胸鰭に掛かっていた。
推測してみるに、テイルフックが最初に掛かり反転時に胸鰭が掛かったのではないかと思ったが、これはしんどい。
長いファイトを強いられて、テイルフック側は、その肉を切り裂いていた。
不便と思いつつも、釣りなるものを続けてゆくが、魚の容赦は一切ない。
いや容赦という言葉は、人間側から見た言葉であって、相手は生きるか死ぬかの究極の選択を迫られているのであり、かつ必死には違いなかった。
思うに、確かにその糸の下にいる奴は疲れてきていると思われたが、ロッドに掛かる重さに変わりはない。
左舷後方に位置してファイトする私にキャプテンは、魚の突っ込む方向に合わせて何度もゆっくりと回してくれた。
そのたび毎にラインは水圧と流れも受けて出ていった。
それに魚の動きも加算されて行った。
それを何度も繰り返して行った。
体力もかなりの消耗してきた。
戦況は、消耗戦に移りつつあった。
「巻いて!巻いてぇ!!」
とT-氏が声援を送ってくれる。
「ガンバ!」
と体育系の淡々とした声援のH。
流石のキャプテンも
「これはかなり大きいかな?」
などと言うものだから、これは記録級?なんて思ったりもするが、30分以上もこのテンションでファイトしてくるとかなりバテ気味にへばってきてしまい、ときどき竿を置いてしまおうかとも思ってしまうものである。
そんな弱気の中の自分と、日頃の鍛える習慣を怠って来た反省の念と、ここで絶対に諦めてはならないという昔の苦労した自分がくるくると頭の中を回る。
ここが踏ん張り時ということころ。
戦闘モードのお陰でなんとかファイトに持ち込めている自分があった。
しかし、この体力低下は酷いもので、自分でもかっこわるい親父だと思った。
息切れ切れの親父のかっこわるさと言ったらまるでなっていない。
これでは子ども達にメタボ親父と言われても仕方がないのかもしれない。
そう思った最中の事。
そんなさなかに、ネットを準備していたクルーから
「あっ!!!!」
という声がファイトしている私の背後から聞こえた。
「・・・・・・」
少しの空白の時間後
「ああああ、それは・・」
と皆さんの声が聞こえる。
後ろをちらりと見るが良く見えない。
また余裕もそうない。
「網の枠が折れています・・・」
「えっ!? マジ?!」 なんで?!詰めのところでそうなるの?
山頂まであとわずかなのに…。
と思ったが、思考回路はそう働いていないのでなんとかなるとしか思えなかった。
キャプテンはあっさりと
「ハンドランディングで」
と言ってグローブを淡々と用意しにかかった。
少しずつショートポンピングで一回転、二回転と地道な糸の回収のお陰もあってかシルバーに光った魚体が見え始めていた。
この段階ともなるともっと早く浮きを始めるのだが、相手は横になって水圧をうけながらゆっくりと浮いてきた。
水中の銀影がゆらゆらと波間に波紋みたいに広げてゆく。
そのうち皆が
「なんじゃあ・・あれ!」
「デカイ!!」
「デカイ!」
の言葉を連発してくれるので妄想は一気に拡がった。
更に海面を覗けるわけではないので期待は一気に拡がりつつ細胞分裂のように増殖するのであった。
「うあゎ・・・やったかな!」
「50~60㎏以上いやそれ以上あるかも!」
「リアル畳サイズ!」
「デケエ!!」
錯覚というのはなんとも頼もしい妄想であろうか?
「でけぇ!」
などと仰せ司るのでこれは、本当にあるかもしれないとへんな期待をしてしまう。
レコード更新・・・・。
そのような希望は切望となり、現実的になろうとしている。
“これは50㎏か60㎏を更新か”・・・もはや妄想にも似た感は払拭できないが。
水の上から浮かびあがる魚影は、確かに大きく見える。
浮上寸前の超大型GT。
次第に浮かび上がるGTの姿は期待を更に膨らませる。
がそれも束の間、リーダーをバチョが手際よく取る頃になるとその言葉は徐々に消えていった。
リーダーまで掴むとあと一息である。
「ああスレ?」
「あっ、スレてる。」
しかしこいつは重かった。
40分近くかかったらしい。
バチョが尾柄部を両手で掴み、もう一人がリーダー側を掴む。
名キャプテンバチョがハンドランディングに入る。


